Chapter 2

豊かな海を取り戻すために、
まずは元気な山にする。
すべてはつながっているから。

リアス式海岸の主役は川であり、
上流の森だった。

畠山さんがリアス式の本当の意味を知ったのも、その頃だと言います。「リアス式の入り組んだ湾は、海の波が削ってできたものと思っていました。しかしスペイン語である『リア(スは複数形のS)』とは『潮入り川』という意味だと知りました。このような入り組んだ湾は、元来、川が削った谷が地殻変動で落ち込み、そこへ海がゆっくり入り込んでできた地形だったのです。つまりリアスの主役は、川であり、上流の森ということ。三陸リアス式海岸の魚貝類が豊富なのは、川が湾へ流入していることで、森の豊富な鉄分が供給されているからだったのです。だから豊かな海を取り戻すには元気な森が必要と気付いたのです」。畠山さんは大学教授にお願いして気仙沼湾と大川の関係を調査してもらいました。気仙沼湾には5つの漁協があり年間約20億円の水揚げがあります。その20億円の9割、18億円分は、大川の河川水によって養われていることが判明。畠山さんたちは大川上流の根室山に広葉樹の植林を決意し、実行しました。1988年のことです。

漁師が木を植える。
元気な山を育てて、
豊かな海を取り戻すために。

「私たちは牡蠣の養殖には川の水が大切であり、川の安定には上流の森林が大切であると気付いて、大川上流の根室山に木を植えることから始めました。特に広葉樹は毎年大量の葉が落ち、腐葉土層が早くできます。そこを通った水はミネラルや鉄分を含んだ水となって海へ流れ、牡蠣や魚たちを育てるのです。すべてはつながっている。これは森と海の関係だけではありません」と畠山さんはNPO法人「森は海の恋人」を立ち上げたきっかけを教えてくれます。「私たちは植林活動を本格化すると同時に、山間部の小学生たちを海へ招き、沿岸部の小学生を山へ連れて行く活動も開始。自然のつながりの偉大さ、循環のすばらしさをもっと広く伝えたいと考えたのです。そしてNPO法人を立ち上げ、豊かな環境の中で人と自然のつながりを体験し、学習できる環境教育を主軸に、森づくり、自然環境保全といった3分野での活動を始めたのです」。2011年3月11日、東日本大震災以降、地域の状況は一変しました。巨大津波の直後、生き物は消え、海は死んだものと誰もが思いました。「しかし今、多くの生き物たちが大変な勢いで戻り始めています。これも全国から届けられる支援の賜。人の未来への想いもまた、つながっていくのです」。循環、目には見えないけれど、とても大切なつながり。元気な未来はさまざまなつながりから生まれていくのだと再確認しました。

畠山重篤

NPO法人 森は海の恋人 代表。1943年中国上海生まれ。高校卒業後、牡蠣、ホタテの養殖に従事。家業のかたわら「森は海の恋人」を合い言葉に、気仙沼湾へ注ぐ大川上流の根室山の植林運動を続ける。その活動は各方面で高く評価され、1994年朝日森林文化賞をはじめ数々の賞を受賞。2012年には国連の「フォレスト・ヒーローズ」(森の英雄)にも選ばれた。

MizuMirai Vol.08

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