Chapter 1

このままでは豊かな
海が壊れていく。
危機感から始まった。

「1980年代、ダム開発と森林破壊で沿岸の海の荒廃が急速に進み、私が子どもの頃にはあれほど豊かだった海の様子がどんどんおかしくなっていったのです。牡蠣の成長も悪化してきました。1年で収穫できたものが1年半かかるようになり、さらに2年越しで育てないと収穫できなくなってきたのです。白い牡蠣の身が赤くなる異変も発生。このままではとんでもないことになるという危機感を抱きました」と畠山さんはきっかけを教えてくれます。牡蠣の餌は植物プランクトン。海水と一緒に体内に吸い込み、エラで濾して食べています。ちなみに1個の牡蠣は、1日に200リットルもの海水を吸っているとか。「家庭廃水、水産加工場からの工場廃水、魚市場の洗浄水などがそのまま海に捨てられていました。追い打ちをかけるように干潟が次々に埋め立てられ、自浄能力の失われた海になりつつあったのです。それまで少々雨が降っても気仙沼湾に注ぐ大川がいきなり濁ることはなかったのですが、いつの頃からか大した雨でもないのに、たちまち泥水が流れてくるようにもなってきました。海の仕事も自分たちの代で終わりだなと、仲間と暗い話ばかりが続きました」。

フランスの海が教えてくれた
森と海の美しい関係。

その後、フランスの牡蠣養殖事業を視察にいった畠山さんはある発見をします。「フランスの沿岸を回っている内に、コンクリートで固められた海岸が少ないことに気付いたのです。足を伸ばしてロワール川を逆上ってもらいました。そこは特に自然環境を保全している地域。ブナやナラなどの落葉広葉樹の見事な森がありました。私が子どもの頃の三陸リアスの原風景そのもの。湾の奥に注ぐ川の上流域は、当時はほとんどがナラを中心とした落葉樹であったことを思い出して、森と川と海は一つのものなのだと私はそう確信したのです」。帰国後、畠山さんは気仙沼湾を海から山までじっくり観察したそうです。「気仙沼湾に注ぐ大川河口に行ってみると、ものの見事に埋め立てられコンクリートジャングルと化していました。山には杉が圧倒的に多くなっていました。間伐をして、手入れがゆきとどいている山は下草も十分生立して見事な美林になっています。しかし、そうでない山は陽が入らないため真黒で下草がまったく生えていません。そのため表土が雨に流され根がむき出しになっていました。雨で川が濁る原因は森林の荒廃にも原因があるとわかりました」。

MizuMirai Vol.08

Special Feature特集①

豪雨、干ばつ、
地球温暖化。
その関係を訊く。

雨はいつから危険になったのか?
豪雨、干ばつ、地球温暖化の関係についてレポートします。

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