Chapter 2
そして水は未来への手紙へ。
南極では、高度10km以上の成層圏でオゾンホールが観測され、中間圏では極中間圏雲(夜光雲)、さらに上層の熱圏ではオーロラなど、特異な大気現象が多く見られる。高度100kmまでの大気は、上昇・下降を伴う地球規模の循環をしており、地球環境に大きな影響を与える。この動きのメカニズムや変化を観測することによって、気象予報や気象予測モデルの精度向上に貢献している。
過去の事実を基盤にした予測は、
よりよい未来の環境づくりに向けた確かな道しるべになる。
南極の氷には過去の地球の情報が詰まっています。では、それを未来へ活かすのはどのような取り組みからでしょうか?榎本特任教授はこう教えてくれます。「地球の記録は未来を予測するための重要な手がかりになります。数十万年にわたる気候の変化を知ることで、現在の地球温暖化がどのような異常性を持つのかを比較検討することができます。また、過去のデータは今後の気候シミュレーションの精度向上に役立ちます。実際に国立極地研究所は氷から読み取った過去の気候変動の詳細な記録を基に、海面上昇の影響や地球温暖化の進行の予測精度を上げるためのデータを各機関へ提供しています。また、気象庁、国立環境研究所、大学の研究チーム、さらには国際的な極地観測ネットワークとも協力し、より包括的な気候モデルを更新し続けています。人工衛星やスーパーコンピュータを駆使して、次の数十年、数百年にわたる気候変化を予測する取り組みは、人類の未来に直結するもの。だからこそ地球の記憶を未来へ活かすことはとても重要だと考えています」。
氷や水が語るメッセージは、決して悲観的な警告だけではありません。むしろ私たちがどのように行動すれば未来をよりよい方向に導けるか、そのヒントが隠されています。予測精度が高まれば、異常気象に備えた防災体制を強化することができ、農業や水資源管理にも活用できるでしょう。その積み重ねは持続可能な未来の環境づくりに役立ちます。そう思うと水はまさに未来への手紙。大切なのはそれをどのように読み取り、どのように活かすかにあるのだと改めて教えていただきました。

榎本 浩之
国立極地研究所副所長・北極観測センター特任教授。専門は雪氷学、気候学、リモートセンシング工学。北海道大学にて学士取得後、筑波大学で修士号、スイス連邦チューリヒ工科大学で博士号を取得。北極、南極、パタゴニア、アラスカ、スヴァールバル諸島などの雪氷圏で幅広い研究を行う。
MizuMirai Vol.11
Special Feature特集②
みずとつちの芸術祭が
伝えること。
新潟の歴史や文化を、
アートを通じて再確認する。
- 詳しくはこちら