Chapter 2

堤防が低ければ溢れるだけ
高い堤防が壊れれば
大被害になる
そんな言い伝えが
現実化している

堤防は高ければ高いほど危険度が増す
ということを知る人は少ない。

堤防の高さが逆に災害時の危険度を増すことになるとは知りませんでした。その理由を瀧先生はこう教えてくれます。「堤防の中に暴れる水を閉じ込めると考えてください。閉じ込められる間は安心です。しかし閉じ込められた水のエネルギーは莫大で、堤防のどこかが決壊するとそのエネルギーが一気に放出されるのです。昔から『堤防が低ければ溢れるだけだけど、高い堤防が壊れれば大被害がでる』と言われていました。昨今の異常気象でその言葉がどんどん現実化しているのはみなさんご承知ですよね。そこでこれまでの治水の考えでは、気候が大きく変化しているこれからの日本を守ることができない。そんな待ったなしの状態に国や国土交通省が本気になってこれからの治水のあり方を提唱したのが『流域治水』という考え方です。2020年7月に提唱されて2021年4月にはそれを実現する法律の整備も整いました。このスピードをみただけでも、新しい治水のあり方が早急に求められていることがおわかりいただけるでしょう」。

これまでの知恵と整備を
バージョンアップした
「流域治水」という考え方。

では、その「流域治水」とはどのような考え方なのでしょうか?瀧先生にお伺いしました。「近代の治水は、極端にいえば『しょっちゅう溢れるのは嫌だけれど、たまに溢れて被害がでるのは仕方ない』というものでした。しかし気候の変化で大被害はたまにではなくなってきました。それではいけない。これからは流域全体を高い堤防で守るのでなく、溢れてもいいところではうまく溢れさせて、住まいが密集しているところでは決して溢れさせないように、流域全体で災害に強い町づくりを行おうというのが『流域治水』。水を逃す場所には住まいではなく、生産力の高い田畑にするように促していく。そのための補償も整備する。河川区域だけの対応ではなくて、河川全体で、貯めたり、染みこませたり、さらに危ない土地にある住まいは移転を促すなど、流域のそれぞれの地域に応じた対策を行うというものです。自然に逆らうのではなく、自然や地形に寄り添った治水は、戦国時代の武将が行っていたことにも通底します。そう思うと『流域治水』という新しい治水の取り組みは、災害に強い新たな国づくりの取り組みでもあります。いつの時代になっても水を治めることは、国を治めるということなのです」。

瀧 健太郎

滋賀県立大学環境科学部環境政策・計画学科准教授。大学院修了後、民間企業を経て滋賀県庁勤務(18年間)ののち現職。河川・流域政策の実務を長年にわたって担当した。現在は、流域の水循環と社会システムとの相互関係に着目し、持続可能な流域社会の実現に向けた政策や計画に関する研究を進めている。共著に「人と生態系のダイナミクス〈5〉河川の歴史と未来」(朝倉書店)がある。

MizuMirai Vol.07

Special Feature特集①

水のチカラを
未来へ。

水のチカラを未来へつなげるために。
水の活かし方について、レポートいたします。

  • 詳しくはこちら