Chapter 1

回帰の場ではなく
元気にする場としての
山水郷へ

東日本大震災で気づいた
山水郷の可能性。

井上さんが山水郷の可能性に気づいたのは、東日本大震災の時でした。「震災後、ボランティアとして宮城県の石巻などへ行きました。ある団体からリアス式海岸沿いの小さな集落に物資を届けてほしいと言われ向かったのですが、大変驚きました」と井上さん。漁師のお父さんたちを中心に、集落の人々が助け合って和気あいあいと生活していたのです。電気もガスも水も使えない石巻の不便な避難所の生活とは大違い。漁船の発電機で電気を作り、裏山には、いざとなれば薪に使える木がある。山と水に恵まれた場所だから自然のトイレで事が足りてしまう。裏山の沢からひいたお手製の簡易水道で水も使い放題。「小さな集落ならではのコミュニティの力もありますが、それ以上に印象的だったのは自然の力、特に森の力でした。森には水と木と土があります。水は命の源。木は火をおこして暖をとったり、煮炊きに使えます。土は生ゴミや糞尿を土に戻してくれ、悪臭やゴミと無縁の生活を叶えてくれます。その事実をまざまざと見せつけられたのがその集落。山水郷のチカラこそ、人間にとってかけがえのないものだと心の底から思ったのです。」

日本は郷土の7割が山水郷。
そのメリットを活かす。

井上さんは山水郷のポテンシャルを広く伝えるために『日本列島回復論―この国で生き続けるために―』(新潮選書)を出版しました。それは田舎へ帰ろうという回帰を訴えるのではなく、これからの日本人が元気で豊かに暮らしていく生き方を提案したものです。「都市的な暮らしを否定はしません。そんな暮らし方の先進国がシンガポールです。しかしシンガポールには自然がありません。水も湧かないので再生水を利用します。そのような小さな人工都市がどのように持続可能な暮らしをしていくか、廃棄物や水循環のシステムを日本とは比べものにはならないほど真剣に考えています。逆にいうと豊かでありつづけることに苦労しているということです」と井上さんは言います。「彼らは自然がないから人工的な都市を構築しつづけなければならないのです。しかし日本は違います。国土の7割が山水郷で、縄文時代からそこで暮らしてきたのです。東京でも大阪でも都心から車で1時間も走れば自然があります。そんなメリットを活かさないのはもったいない。山水郷は暮らしを豊かにする源なのですから」と井上さんは日本が持つポテンシャルの高さに注目しています。

MizuMirai Vol.06

Special Feature特集①

そして、46億年。

水と地球の
現在、過去、未来。

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